俺の家にメイドロボがやってきてしばらく経ち、すっかり生活が一変してしまった。
今まで一人きりで過ごすことが多かった俺の生活が華やかになったんだ。
学校から帰るのにも寄り道するばかりだったのに、今ではそんなこと考えられない。
早くユリナたちに会いたい。

「ただいまぁ〜」

俺が勢いよくドアを開け、家の中から『おかえりなさいませ』とユリナとサキちゃんから声がかかるのを待つ。
・・・
あれ、声が全然聞こえてこないな。
どうしたっていうんだろうな、いつもなら二人の声がすぐに帰ってくるっていうのにさ。

「ただいま〜ユリナ、サキちゃん、今帰ったよぉ〜」

待ちきれずにまた声をかけてみたんだけど、それでも返事が来ない。
空しく俺の声だけが静まり返った家の中に響くばかりだ。
おいおい、二人に何かあったんだとしたら、大変だって心配になってきたぞ。
どうしよう。

1 家の中をしらみつぶしに探してみるか
2 下手に動くのはまずいな。親父に電話して聴いてみるか
3 ん?どこからか『うっさいな〜』とけだるそうな女の子の声がしてくる



ユリナがいない生活なんて考えられなくなった俺には、あの声が返ってこない今の状況は辛すぎる。
きっと俺の声が届かない場所にいるだけで、屋敷の中にいると思いたい。
しかも、サキちゃんまでいないのはどういうことなんだ。
不安ばかりが大きくなり、いなくなった原因を色々と考えてみると、あるわあるわで自己嫌悪に陥りそうだ。
この間、ユリナのいうことをちゃんと聞いてあげなかったからだろうか。
それとも掃除も料理も出来ないサキちゃんを可愛かいからといって、ついからかったからだろうか。
うぅ〜ユリナ、サキちゃん、帰ってきてくれよ、お願いだから。

『ちょっと〜うっさいんだけど。あんたさ、さっきから喚いてばかりいるけど、何なの?』
「え?」

頭を抱えこんで下を向いていた俺の耳に、すぐ近くから女の子の声が聞こえてきた。
ちょっとけだるそうなのに、色っぽい甘い感じのする声の持ち主はどうやら目の前にいるらしい。
ユリナたちが履いていたのと同じ靴をみつけ、俺は足元から徐々に顔をあげていく。
フリルのついたヒラヒラしたゴスロリファッションからみても、メイドロボのような気がする。
ロボットなのに肉づきがいいとはおかしな表現だと思うが、俺は女の子の足にちょっと見惚れてしまった。

『ちょっと、何ジロジロ足みてんの?この変態』
「へ、変態とは何だ。変態とは。べ、別に足にみとれていたわけじゃないんだからな」
『じゃあ何で人の足みてしばらく顔をあげなかったわけ?』
「そ、それは」といいかけて、俺はようやく声の主の顔をしっかりと見た。

そして、その瞬間、心臓が握りつぶされたように止まってしまった。
す、すげぇ美人の女の子が目の前にいたんだから、当たり前といえば当たり前か。
おいおい、この女の子ももしかしてメイドロボなのか?

『言えないってことはしっかり見てたんじゃない。この変態』

美人は美人だが、こいつ何というか今までの二人と比べてもツンとしてやがるな。
むむ、一言ガツンといってやるか。

1 え、えぇとび、美人ですね
2 変態とは何だ、俺はお前のご主人さまだぞ
3 は、はじめまして・・・何言ってたんだ、馬鹿



ガツンと言ってやりたい気持ちとは裏腹に、俺の口から出た言葉は拍子ぬけするほど間抜けだった。

「は、はじめまして・・・」
『ふふっ、何だ、ちゃんと挨拶できるじゃない。博士から挨拶もろくに出来ない馬鹿息子って聞いてたから安心した』
「は?いやいや、つうか何言ってるんだよ、俺は。馬鹿」
『ま、そっちが名乗ったんだからこっちもちゃんと挨拶しなきゃね。はじめまして、ミヤビです』

はじめましてと言ってみると、さっきまで変態扱いしていたのが嘘みたいに豹変した。
とても可愛い笑顔で、俺に挨拶をしてくれた。

『なぁに、ぽか〜んとしてるわけ?ほら、玄関に突っ立ってないでさっさと中に入る』
「あ、うん」

ユリナたちと同じメイドロボとして作られたのだろうに、ミヤビはお世話をしてくれるような気がしない。
むしろ、こっちがお世話をしなきゃいけないみたいな雰囲気がしてしょうがない。
ロボットのくせに・・・

『さぁ帰ったらすぐに宿題やりなさい。じゃないとおやつはなしだから』
「高校生にもなって宿題があるわけないだろう」
『嘘ついたって無駄だよ。あんたがサボったら注意するように博士に言われてるんだからね。ほら、早くやって』

俺が座るよりも先にメイドロボのくせにソファーにどっかりと座り、偉そうにしているミヤビ。
こ、こいつ、何てロボットだよ。
言動の全てがメイドらしさからかけ離れているにも程がある。
今度こそガツンと言ってやる。

1 テーブルの上にある説明書を手に取ってからにしよう
2 宿題を終わらせたらいいことしてあげるって?しゅ、宿題なんて・・・はい、します
3 お前もどうせEモードがあるんだろうと言って胸を触ってやる



ミヤビをこらしめるのにまずは説明書を読むべきだろうと、俺はテーブルの上に置かれていた説明書を手に取った。
ミヤビはそんな俺には構わず、テレビに夢中である。
しめしめ、宿題をやるふりをしてしっかりお前の弱点を突き止めてやるからな。

『ちゃんとやってる?』
「うん、バッチリ」
『ならいいけど。後でしっかり確認するからサボろうなんて考えないでね』

大丈夫だよ、お前をこらしめるのに手は抜かないよ。
説明書もはじめのうちはユリナたちの説明と変わらなかったのだが、最後の方にミヤビだけについてあると書かれた機能を発見した。

“ミヤビはユリナたちと違い、TDタイプと名付けた新機能を搭載している。Tの割合が高い状態ではミヤビはなかなか言うことを聞いてくるないが、Dの割合が高くなるとユリナたちよりも恋人のように振る舞ってくれるようになる”

へぇ〜そいつは素晴らしいな。
面白そうだと思った俺は、さらに先を読み進めることにした。

“ミヤビがTかDかを見分けるには…”

ちょっと待て、どうして肝心なところが書かれていないんだよ。
これじゃどう見分けるかがわからないじゃないか。

『ちょっと〜何もノートに書いてないよ。宿題やったらいいことしてあげようと思ったのに』
「マジ?もう頑張らせて頂きます」

ミヤビがどんないいことしてくれるか知らんが、宿題するふりを続けよう。
続けながら、Dミヤビにしてやるんだ。

1 肩こってない?ロボだからこらないって?いいからいいから
2 ミヤビさん、出来ましたと愛の方程式を書いて渡す
3 ミヤビさんってユリナたちに比べたらいいロボットじゃないね



そうだな、ここはミヤビに優しくしてみるか。
こちらから歩み寄っていけば、もしかしたらミヤビはDミヤビになってくれるかもしれない。
何事も自分から動かなければ始まらないというしな。

「ミヤビさん、肩こってないですか?」
『何いってるの、ロボットなんだからこるわけないじゃん。そんなことはいいから宿題やって』
「ロボットでも肩をもまれると気分もよくなるんじゃないかな」
『ちょっと〜こってないって言ってるでしょ。いいってば。もう席に戻って』
「いいからいいから、こちらに任せて。おや、こってるんじゃないのか。固いぞ」

俺はミヤビの後ろ側に回り込み、肩を揉もうと首筋をみてみた。
綺麗なうなじしてやがるなぁとまたしてもみとれていたら、メーターらしきものを発見した。
左側にT、右側にDと書かれていて、今はちょうど中間くらいに針が止まっている。
これってもしや、ミヤビのTDを見分けるメーターなのではなかろうかと思い、得した気分になった。

『早く戻らないと力づくで席につかせるよ。いいの?』

振り返って俺と目をあわせ、じっと睨みつけてくるミヤビに俺は

1 いいよ。こっちは弱点発見したもんねとメーターを触ってみる
2 そう怒らないでよ。せっかくの美人が台無しだよと言って微笑む
3 ご、ごめんなさいと席に戻ろうとして、思わずつまづく



「そう怒らないでよ。せっかくの美人が台無しだよ」と言って、肩に手をおいて微笑んでみた。
たぶん、今まで生きてきた中で初めてキザなセリフを吐いた気がする。

『ちょ、ちょっと、な、何言ってるんだか。ロボットに美人も何も・・・ばっかじゃないの』

ぷっ、照れてやがる。
ぷいっと前に向き直り、ぶつぶつと『席に戻りなよ』と呟いている。
おかげで俺はミヤビのメーターがDに動いたのがみられ、早くDミヤビが見たくなってきてしまった。
恋人みたいに接してくれるって書いてあったが、どんな風になるのかが今から楽しみだ。

「ミヤビさんはうちに来てくれたロボットの中でとびっきりの美人だよ」
『お、おだてたって何もあげないからね。馬鹿なこと言ってるからおやつ禁止なんだから』
「おやつはいいんだ。それよりもミヤビがほしいな、なんつって」

自分でも歯が浮くようなセリフを連続していったせいか、照れて最後はまともに言えなかった。
だが、その甲斐あってミヤビのメーターがどんどんDになっていくのが見える。
もうひと押しかな。

1 ミヤビ、大好きだよと後から抱き締める
2 ミヤビに声をかけようとすると、また振り返ったミヤビにキスをされる
3 他に言うことは?と言われ、ごめん、照れてもう言えないよ



もうひと押しとは言ったものの、これ以上は口が裂けても言えそうにはない。
言ってる自分まで顔が赤くなってしまい、慣れないことはするものじゃないとつくづく思う。
手をうちわ代わりにして扇いでいると、つっかえながらミヤビは話しかけてきた。

『あ、あのさ・・・他に言うことは?』
「え?他に言うことはって?」
『だから、他に私に向かって言うことあるんじゃないかと思って。あるでしょ』
「えぇと・・・ごめん、照れてもう言えないや」

これが正直な俺の気持ちだ。
さっきまでかっこつけていたけど、いざ言おうとしても今では恥ずかしさがあって言えるわけない。
だから、これ以上何かを求められても困ってしまうんだ。

『ふ、ふぅ〜ん。そ、そう』
「何か?」
『ううん、別に。ただ、何て言うか、美人って言ってくれて嬉しかったかなって』
「あ、あれは本当に美人だって思ってたから言えたんだ」
『そうなんだ。でもね、ひとつだけ教えておいてあげる。女の子に会ってすぐにそんなこと言うと警戒されるからね』

私だからいいけど、と最後に付け加えて俯いてしまった。
俯いたのでまたメーターが見られたのでみると、すっかりDに変わっていた。
では、これがDミヤビってわけなのか?

「ちょっと聞いていいかな。今、胸がキュンとしてたりしない?」
『ば、馬鹿言わないでよ。誰があんたなんかに』

そう言ってまたしても向いあった俺とミヤビは

1 我慢できない。キスくらいならいいよな
2 ダメだ、まともに顔もみられやしない
3 しゃべろうとした瞬間、お互いにタイミングが一緒になり・・・



照れていたにもかかわらず、キスがしたいと思うと、すっかり気持ちは落ち着いていた。
自然とミヤビの肩に手を置き、俺は目を閉じゆっくりと唇を近づけていった。
ロボット相手に何緊張してるんだろうな、と自分の情けなさに苦笑いしてしまう。
でも、緊張しているものは仕方ないじゃないか。
俺とミヤビの唇が触れ合い、緊張が再び湧き上がってきた瞬間、ビニール袋が床に落ちる音がした。
突然耳に入った物音に俺は慌ててミヤビから離れ、音のした方へ向いてみた。
そこには口を抑え、体を震わせて泣きそうな顔をするユリナとサキちゃんの姿があった。

『  さん、ひ、ひどい・・・私、私・・・』
『あわわわ、私は何もみてませんデス。えぇと・・・きゃっ』
「ユ、ユリナ、こ、これは・・・何ていうか、まだ何もしてないから平気っていうか」
『うわあああん・・・  さんなんてもう知らないんだから』

泣きじゃくるユリナを追いかけていき、結局俺はミヤビとのキスは未遂に終わった。
ユリナを慰めるのに時間がかかり、最終的には夜が明けてしまった。
手がかかるんだが、そこがまたユリナの可愛いところだし、俺は嫌いになんてなれない。
ミヤビが加わった我が家に、これからどんなことが起こるのか波乱は始まったばかりだ。

そう、親父にメールをしてみた。
そして返ってきた返事は

”  へ。ミヤビはまだ色々な可能性が眠っている。完全にDモードになったミヤビはお前の想像以上のはずだ。楽しみにしておけ。
PS Dモードが終わった後には気をつけておけ。じゃあな”

何はともあれ、Dミヤビに会えるのはまだまだ先のようだ。


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