「梅田、嗣永、真面目に授業を聞け!」
いつもの様に授業をし、不真面目なあいつらにチョークを投げつける。
まったく堂々と立ち歩くとはいい度胸じゃないか。どうやらそろそろきついお仕置きが必要らしいな。
その点清水は真面目に授業を聞いている。少しはこの真面目さを見習ってほしいぜ。
「先生、あの、ちょっといいですか?」
一人の生徒が勢い良く手を挙げた。長い手のこの生徒は・・・
 
「おう、矢島か。どうした」
「その漢字間違ってますよ」
「え?!あ、ああ、すまん。よくわかったな」
うわ恥ずかしい、教える立場の俺が間違ってしまうなんて。
「先生だめじゃ〜ん」
「せんせぇもまだまだだね♪」
茶化してくる梅田と嗣永を無視して授業を続けた。
・・・矢島は普段から時々こうして間違いを見つけて指摘してくれる。
行動は大雑把なんだが細かいところに気付く生徒だ。
 
 
「先生、ちょっといいですか・・・?」
放課後職員室で仕事を終えて休憩していると矢島がたずねてきた。
「どうしたんだ」
「・・・ちょっと相談したい事があって」
 
 
1 ここで聞いてやるか
2 「ここじゃ話しづらいんです」と言われた
3 ・・・なんか顔色悪いな、そう言えば昼間からそんな感じだった 



・・・なんか顔色があまり良くないな。色が白いから目立つ
なんだか息もちょっと荒い気がする。もしかして具合が良くないのか?
そういえば昼間もちょっと顔色が良くなかった。矢島・・・大丈夫かな
「あの・・・実は・・・」
そっと隣に座る矢島。あまり無理するなよ、何をするにも体がしっかりしてないと
「・・・・・・・・・」
「や、矢島?!」
話そうとしていた矢島が急にぐったりしてしまった。
「おいどうした、おい」
体を揺すってみたが返事がない。息はしているから気を失ったわけではなさそうだが・・・
「・・・はぁ・・・はぁ・・・っ」
「ちょっとごめん」
額をさわったらすごい熱だ。やっぱり風邪だったか
 
 
1 すぐに保健室に運ぶ
2 じ、人工呼吸を・・・
3 幸い近くに薬があった、飲ませてやろう 



そういえば入ってきた時からもう汗をかいてた。今はこんなにずぶぬれで・・・
か、髪がほっぺに張りついて、な・・・なんだか妙な色気があるな。
「苦しいか?大丈夫だ、心配はいらない」
幸い俺の机には前に買っといた薬があった。これを飲めば大分楽になるはずだ。
「飲めるか?」
水を入れたコップと錠剤を渡した。
「だ・・・大丈夫・・・」
コップを持つ手が震えてるぞ。本当に大丈夫か?
「ん、んんっ」
錠剤を口にふくんでコップの中の水を飲もうとする矢島。
「んぁ・・・あう・・・」
やっぱりだめだな。うまく喉まで水が流れていかない。口からそんなに垂らして・・・
や、矢島、お前、普段からこんなに色気あったっけ?
髪がほっぺに張りついて、汗ばんで、く、口から垂れる水が卑猥なものに見えてしまう。

さっきから何を考えてるんだ。生徒が目の前で苦しんでるんだぞ
 
 
1 急いで保健室へ
2 他の先生の目が気になるが口移しで飲ませる
3 急に矢島が泣き出した 



「っく・・・うぇえ」
なんだ?矢島の目からつうっと汗が・・・違う、これは涙か?
「やだよぉ。まいみをおいていかないで」
「おい、どうしたんだ?!」
矢島はいきなり俺の腕をつかんで泣き出してしまった。
「やだ、やだっ、ひとりにしないで。まいみを・・・ひとりに・・・」
よく分からないが様子がおかしい。ひとまず保健室に連れていった方がいいだろう。
「保健室にいこう。ちゃんと歩けるか?」
「う・・・うん」
 
保健室に行くまでの間にようやく矢島は落ち着きを取り戻した。
「・・・・・・・・・」
今度はちゃんと薬を飲めて安心した。しかし、今のはいったいなんだったんだ。
「・・・さっきは恥ずかしいとこ見られちゃった」
えへへ、と照れ臭そうに笑う矢島。さっきは突然腕をつかまれてびっくりしたぜ。
「やっぱり休めば良かったかな。学校好きだから無理して来たけど」
矢島はそっとベッドに横たわった。
 
 
1 あえて普通に接するか
2 さっきのはいったいなんだ?おいていかないでとか・・・
3 心配だから添い寝してやるよ 



こういう時は変に意識しない方がいい、普通に接しよう。
「もう大丈夫か?無理するな」
「・・・頭がぼーっとしてるみたい。ちょっと寝るね」
そう言うと矢島は目を閉じた。あんなに苦しそうだったのにもう寝息をたてて・・・
さっきはちょっとびっくりしたけど、もう大丈夫だな。
かといってこのままにしておくのも無責任だ。矢島が目を覚ますまでそばにいてやるか。
「すぅ〜・・・すぅ〜・・・」
梅田や嗣永の寝顔は見たことがある。授業中どころか休み時間も寝てるからな
 
矢島・・・なんかきれいな寝顔だな。まだ汗ばんでる、このまま寝てたら風邪ひきそうだ
 
 
1 汗をふいてやろう
2 ・・・ここにいたら変なことしそうだ、職員室に戻ろう
3 もっと近くで顔を見たい 



汗をふいてやらなくちゃ。このままじゃ風邪が悪化するぜ。
「ん〜・・・」
さすがに服の中まで汗をふいてやるわけにはいかないよな・・・顔ならふけるが。
「すぅ〜・・・すぅ〜・・・」
矢島、こんなところに黒子があったのか。ここにも。唇、厚いんだな。
こうして見るとなんだか男みたいに見える。あの暑苦しい兄貴に似てるな。
 
気が付けば俺は矢島に近づいて寝顔に見入っていた。いま目が覚めたらどんな反応するだろう。
・・・いい匂いだ。汗をかいてたのになんでこんないい匂いがするんだろう。
矢島・・・可愛いっていうより美しいっていう方が似合うな。
・・・さっき、おいていかないでって言われた時に兄貴の気持ちがわかった気がした。
もし梨沙子に言われたら、俺は我慢できないかもしれない。
 
 
1 矢島がまた泣きだしたぞ、どうしたんだ
2 さ・・・触りたいな、その顔を
3 起きるまで静かに見守る 



少し前なら自制できたかもしれない。しかし、俺は衝動的に矢島の顔に触れていた。
ぷにゅっと俺の指を飲み込んでしまいそうにやわらかい肌。このほっぺ・・・兄貴は独り占めか
「んん・・・っ」
矢島はくすぐったそうに顔を動かしたが俺はかまわずに触れたままだった。
「・・・?」
ぱち、と矢島の目が開いた。しばらくまばたきしていたが・・・
「な、何してるんですか先生!!や〜〜〜だ〜〜〜〜!!」
 
目の前に火花が散って、鈍い痛みがじわじわと広がっていく。お、俺は・・・どうなったんだ
「いてぇ〜〜〜!!」
ああ・・・殴られたのか。さすが現役のパンチは伊達じゃないな。これは重い。
「せ、先生、大丈夫?」
「殴ってから言うなよ・・・」
鼻血がしばらくは止まりそうにない。よりにもよって鼻を殴られるとは・・・
 
 
少し寝たら具合が良くなったらしく矢島は元気になっていた。
「ごめんなさい・・・」
「いや、起きていきなりほっぺ触られてたらびっくりするよ。矢島は悪くない」
保健室を出て校庭を歩きながら矢島と話をした。
矢島はまだ小さい時にひどい風邪をひいた事があり、その時に家族が看病していた。
・・・具合が悪化してピークの頃に薬を飲ませようとしたら家に無く、仕方なく家族で買いに行った。
薬局はすぐ近くにあったが矢島はたった一人で待っていた時間、ずっと怖かったらしい。
・・・その負い目もあり兄貴は今でも妹が心配なのかもしれない
 
「そうか・・・そんな事があったのか」
「・・・怖かったです。すぐ皆帰ってきてくれたんですけど、もう本当怖くて」
普段は活発で明るいのにそんな傷を背負っていたのか。なんだか・・・人は見た目だけじゃわからないな。
「先生、今日はありがとうございました。また明日!」
「ああ、気を付けてな」
深くお辞儀をして矢島は走っていった。
・・・と思ったら戻ってきたぞ。なんか忘れ物か?
「・・・今の話は私たちだけの秘密ですよ。約束!」
「・・・ああ、約束だ」
指切りをしてもう一度お辞儀をして走っていった。
 
・・・・・・俺にもあるよ。人間は誰だって人に言えない傷を背負ってるんだ。