「ねぇせんせぃ♪まいねぇおおきくなったらせんせぃのおよめさんになるんだぁ♪」
「そっかぁ、先生もまいちゃん大好きだよ。まいちゃんが大きくなって結婚できる年になったら結婚しよう。」
「うん!それじゃあゆびきりしよう!」
「ゆびき〜りげ〜んま〜んうそついたらはりせんぼんの〜ます♪」

「せんせいっ!いかないでっ!」

また夢・・・?最近また昔の夢をよく見るようになった。顔の分からない先生にプロポーズする夢。
でも最近は少し違ってた。夢に出てくる先生の顔が”あの先生”に変わっていた。
不良から早貴ちゃんを助けてもらったあの時から夢の主人公が先生になっている。
先生を意識するようになったから?ううん、自分でも良く分からない。
そんな事を毎日考えるようになって、私は落ち着きがなくなっていた。

「あ、電話だ。」
「もしもし?私だべ・・・だけど。次の作品の締め切りがもうすぐだけど、どうかな?」
「すみません。今まとめてるところだったので・・・締め切りまでには必ず仕上げます。」
「そう?もし無理だったら伸ばしてもいいんだよ。私はあなたに無理だけはして欲しくないんだから。」
「いつもすみません。おばさんには迷惑かけてばかりで。」
「いいべさ。私は舞ちゃんの唯一の肉親なんだから。それより今悩んであることでもある?」
「えっ!?そ、それは・・・?」
「おばさんを侮っちゃいけないよ。舞ちゃんの声を聞いただけで分かるんだからっ♪」
「ごめんなさい・・・」
「ほらぁっ!そんな遠慮しちゃダメ!もし悩んでることがあったら思い切ってぶつかってみるのも手だよ。舞ちゃんはちょっと大人しいとこがあるから。」
「はい・・・ありがとうございます。」

おばさんには全て見透かされていた。まったく敵わないなぁ・・・
もしかして私先生のこと・・・こうして悩んでいても仕方がない。
私の気持ちを、そして夢の正体を確かめなくちゃ・・・
(つづきます) 


1月17日、今日と明日はセンター試験。
学校の先生はほとんどが受験生の応援と付き添いのため、職員室には俺と・・・

「おにいぃちゃん・・・わたしとけっこんしてぇ・・・」
「だめだ!俺とお前は兄と妹なんだ。そんなの許されないよ・・・」
「でもおにいちゃんのことが好きなの!私・・・怖いの。おにいちゃんが遠くへ行っちゃいそうで・・・」
「    ・・・俺は絶対お前を離したりしない。絶対だ。」
「おにいちゃん・・・私を抱いて・・・」

「あーべーせーんせーぃ!だからエロ小説を大声で朗読しないでくださいっ!」
「あーすまんべさぁ♪ついつい興奮して。なっちってばついつい感情移入して・・・」
「もしこんな時に先生とか生徒が入ってきたらどうするんですか!誤解されちゃいますよ!」
「ふぅーん・・・そんなになっちがいや?なっちは   先生とならそんな関係になってもいいべさ・・・」
「安倍先生っ!」
「あら、すぐむきになってぇ♪本当にからかいがいがある先生だべさ。梅田さんがからかいたくなるのもわかるべ♪」
「安倍先生・・・・いい加減にしてください・・・」

いつものように安倍先生に弄られていると職員室の扉が開き、生徒が入ってきた。
「あら?萩原さん?今日は学校休みだけどどうしたべ?」
「ちょっと先生に話がありまして・・・」
「安倍先生に会いに来たのか?あれだったら俺席外すか?」
「いいえ。   先生に用があって来たんです。」
「俺に?」

1 安倍先生、ちょっと席を外してくれませんか?
2 いつもの屋上行こうか
3 図書室に行く 



「そ、そうか・・・それじゃあいつものところに行こうか?」
「はい・・・すみません。」
「おーっ!萩原さんの運命の時間キターッ!がんばれ乙女っ♪」
「安倍先生!からかわないでくださいっ!」
「おーっと怖いべさ・・・はいはい、いってらっしゃい♪」

安倍先生はそう言うと俺にウインクをした。いや、萩原にしたのか?
ともかくおちゃらけている安倍先生を置いて、俺たちはいつもの校舎の屋上へ向かった。

「ふぅ・・・ちょっと寒いけどいい天気だな。まさに試験日和だな。あ、萩原風邪引くぞ。」

(Mai's SIDE)
そう言うと先生は自分の上着を私にかけてくれた。
先生は「ちょっと臭うかもしれないけど」って言ったけど、私この匂い好きだよ。
煙草の匂いがほんのりとして、それでいてなんとなく温かい匂い・・・まるで先生に優しく抱きしめられてるみたいで・・・

「舞ちゃんは優しい子だね。そのきれいな字を書けるのはきっと心がきれいで優しい心の持ち主だからだよ。」
「へへっ♪せんせぃありがとう♪せんせぃもやさしいんだね。そんなせんせぃ、まいだぁいすきっ♪」

また小さい頃の夢が。ううん、夢じゃない。今度ははっきりと顔も先生の顔が浮かんできた。
まさか?ううん、そんなはずは・・・でも、知りたい。
本当のことを知ったら失望するかもしれない。でも、このままじゃいけない・・・

「萩原どうした?具合でも悪いか?寒いから中に戻ろうか?」
「先生・・・あの・・・」

1 先生、私のことどう思いますか?
2 先生は昔小学校の先生をしたこと・・・ないですよね?
3 先生、私のこと覚えていませんか? 



「先生・・・あの・・・昔、5〜6年ぐらい前に小学校の先生とかやったことないですよね?」
「5〜6年前か・・・」
俺が教師になったのは大学卒業してすぐで、その前に2浪してるからぎりぎり合わない。
それに俺は最初に赴任したのが中学校で、2年後にこの学校に赴任してきたんだ。
だから小学校で教師になった経験はない。

「う〜ん、小学校で教師になったことはないなぁ。で、それがどうかしたか?」
「そうですか・・・そうですよね・・・」

心なしか萩原の表情が曇ったように見えた。

「先生、私の思い出話聞いてくれませんか?」
「あ、ああ。俺でよければ。」
「あのね、私小学校の時にみんなからいじめられてたの。私だけ仲間はずれでいつも寂しかった。」
「萩原・・・」
「でもね、そんな私にも守ってくれる味方が一人だけいたの。小学校の時の先生。舞のことを優しく守ってくれた。」
「いい先生だな。俺もそんな先生になれたらって思ってるよ。」
「その先生の顔ってはっきり覚えてなかったんだけど、なんか変なの。」
「変って?」
「最近その頃の夢をよく見るの。その先生の顔が   先生の顔になって・・・」
「萩原・・・」
「でも先生は小学校で先生したことがないって・・・私の思い込みかもしれない。幻なのかも・・・」

萩原はうつむいて肩を震わせていた。そして綺麗な瞳から大粒の涙が零れ落ちてきた。

「萩原・・・」

1 「決して幻じゃないよ」と慰める
2 思い出すんだ!何か忘れていることがあるはずだ
3 何も言わずに萩原を抱きしめる 



肩を震わせて泣きじゃくる萩原。俺は思わず萩原をぎゅっと抱きしめた。

「先生・・・あっ・・・」

抱きしめた萩原からは甘く優しいほのかな香りがしてきた。
肩も身体もこんなにか細いのか・・・とても不良を投げ飛ばしたりした身体とは思えないほど・・・
こんな弱く儚い身体で今まで一人で必死に戦ってきたんだな・・・
そんな萩原が愛しく思い、萩原を一層強く抱きしめていた。

「先生・・・いたいよぉ・・・」
「あっ、ゴメン・・・」
「でも、このまましばらく・・・舞を抱きしめていて・・・」
俺は赤ん坊をあやすように綺麗な黒髪を撫でながら萩原を優しく抱きしめた。

「先生、ありがとうございました。ごめんなさい、急に取り乱しちゃって・・・」
「いいんだよ。人間泣きたい時には思いっきり泣くのもいいもんだ。」
「でもなんでだろう。昔の思い出に先生が出てくるなんて。やっぱり私の思い込みなのかなぁ・・・」
「萩原。俺が言うのもなんだけど、その思い出は決して思い込みじゃなくって本当の事だと思う。」
「先生・・・」
「幻だったらそんなにはっきりと思い出せないだろ。俺が出てきたのは驚いたけど。いや、俺を出してくれてむしろ嬉しいよ。」
「ありがと・・・でも変なの。その先生の思い出はほんの短い間だけどはっきりと覚えてるの。その後その先生がどうなったかも覚えてないし。」
「短い間・・・?萩原、それって小学校何年生の頃か覚えてるか?」
「えっ?千聖ちゃんに会う前だから・・・多分1年生だと思う・・・」

ちょっと待てよ・・・そうだ!大学4年の時に2週間だけ小学校に教育研修に行ったことがある。
場所はあいつの故郷のこの街・・・いかつい俺に子供は誰も懐かなかった。
いや、一人だけいつもぴったりくっついていた女の子が。
給食でいつも自分の分の牛乳をくれて、くりっとした瞳に長く綺麗な黒髪・・・


「ねぇせんせぃ♪まいねぇおおきくなったらせんせぃのおよめさんになるんだぁ♪」
「そっかぁ、先生もまいちゃん大好きだよ。まいちゃんが大きくなって結婚できる年になったら結婚しよう。」
「うん!それじゃあゆびきりしよう!」
「ゆびき〜りげ〜んま〜んうそついたらはりせんぼんの〜ます♪」
「せんせいっ!いかないでっ!」

「まい・・・ちゃん?まさか?」
「やっと・・・思い出したんだ・・・バカ・・・こんな可愛い子の約束を忘れるなんて・・・はりせんぼんのますんだから・・・」
「せんせぇ〜っ!」

萩原、いや舞ちゃんは俺に飛びついてきた。そんな舞ちゃんを俺はしっかりと抱きしめた。
「ただいま、舞ちゃん。」

「先生ひどいよぉ・・・こんな可愛い子のこと忘れるなんて。」
膨れっ面をして俺の顔を覗き込む舞ちゃん。
「ゴメン・・・」
「へへぇ、うそだよぉ〜♪こうして先生に会えただけでうれしいもん♪」
「しかし、あの舞ちゃんがこんなに大きくなるなんて。なんか見違えるような美人さんになって。」
「うれしいなぁ♪あとぉ・・・あの約束も忘れてるよねぇ・・・?」
「約束・・・?もしかして?」
「大きくなったら私をお嫁さんに貰ってくれるって♪」
「えっ!?あっ!?」
「嘘ですよぉ〜あくまでも小さい頃の約束ですから〜♪」
「ふぅ・・・驚かせるなよ。」
「でも、あと3年ちょっと経ったら・・・ちゅっ♪」

俺の左頬に触れる柔らかくて優しい舞ちゃんの唇

「先生がまだ一人だったらお嫁に行ってあげるね♪それじゃあバイバイ〜♪」
「萩原・・・いや舞ちゃん・・・」


「舞・・・よかったべ。おばさんは舞の幸せな顔を見るのが一番幸せだべ・・・」