「父さん・・・僕、なんか変じゃない?」
「変だな。ネクタイが曲がってるぞ」
「ほんとに?ごめん、直して」

そんなに笑わないでよ父さん。スーツなんて着たの初めてなんだからさ・・・
「まあそうかたくなるな。今日は研修だが、難しい事はまだしない。挨拶の様なものだ」

うう〜〜、父さんはもう慣れてるから落ち着いてられるんだよ。
今まで勉強はしてきたけど、実習なんて初めてなんだから。
大きなお屋敷だなぁ・・・僕もいつかはこういう様なところで働くんだろうか。

「ほら、挨拶するんだ。こちらがご主人様だぞ」
「は、は、はじめまして。今日はよろしくお願いします」
・・・灰色に近い白髪で痩せた初老の男性。いかにも優しそうな顔つきだ、よかった。
「この子が君の息子か。ふむ、いい眼をしているね」


男性の隣に女の子がいた。
車椅子に座ったままこっちを見ている。
でも・・・話し掛けてこないな、どうしてだろう

1 話し掛けてみようか
2 父さん、あの子は誰?
3 と・・・トイレにいきたい 



ちょっと話し掛けづらかったので話しやすい父さんに聞いてみた
「父さん・・・あの子は誰なの?」
「こら、あの子というな。このお屋敷のお嬢様だぞ」
「ええっ?!」

男性、いやご主人様にその声が聞こえてしまった。
「おおそうだ、この方達に挨拶しなさい。愛理」

あいり?この子、いやおじょ、お嬢様の名前なのか。
「・・・・・・」
愛理・・・お嬢様は僕と父さんを見つめていたが、顔を赤くしてうつむいてしまった。
「なんだ恥ずかしいのか。せっかく歳が近い子が来てくれたのに、話すのはいやか?」
「・・・・・・////」

うつむいたまま首を横にふっている愛理お嬢様。
人見知りしてしまう子なんだろうな。僕も・・・そうだし
「そうだ、君。愛理の話し相手になってくれないか?」
「ええっ?!」
「ご主人様のお願いだ。やってみなさい」
「と、父さん、でも」
「心配はいらない。さあ」

さあって言われても・・・

1 まず挨拶からだ
2 何を話したらいいんだろう、わかんないよ
3 お、お嬢様、顔が赤いよ。大丈夫かな 



まず話の基本は挨拶から、父さんにそう教わった。
「あ、あの、愛理お嬢様、は・・・はじめまして」
僕は少しかがんで、お嬢様の目線に顔を近づけて挨拶した。
すると、いきなり顔をあげてきた。挨拶してくれるのかと思ったら・・・
「み、見下ろさないで!!」
「ご・・・ごめんなさい、あのっ」
ああっ待ってください!お嬢様どこに?!
愛理お嬢様は車椅子を動かして外に通じる扉の方へ進んでいき、そのまま出てしまった。
どうしたらいいのかわからずにおろおろしていると、ご主人様が優しく話し掛けてくれた。
「すまないな。愛理は悪い子じゃないんだ、ちょっと気難しいところがあってね」
「い、いえ、ごめんなさい!僕、お嬢様にひどい事をしちゃいました」
「なに、気にするな。まず屋敷の中を見学するといい。それからまた来なさい」
「は・・・はい」


・・・いきなり嫌われちゃったかな。そんなつもりじゃなかったのに
「気にすることはないさ」
「父さん・・・」
ご主人様に言われた通り、お屋敷を見て回ることにしたけど、そんな気分にはなれない。

1 いや、我慢して見学しよう
2 父さん、愛理お嬢様のところに行ってもいい?
3 ・・・父さんもうまくいかなかった事はある? 



「父さんはうまくいかなかった事はある?」
「そりゃあるさ。俺なんかお前と同じ中学の時は相手に対して対等な口を聞いてて、親父によく殴られたよ」
と・・・父さんが?信じられないな。そんなイメージがないから
「おまえは立ち振舞いが優しいな。昔の俺とは素質が違うんだよ、だから自信を持ちなさい」
じ、自信かぁ。そうだ、さっきはうまくいかなかったけど次はうまくいくはずだ。
「ごめん、愛理お嬢様のところに行ってもいい?」
「行ってきなさい。きっとお待ちだろう」

さっき愛理お嬢様はあっちの方から外に出た。って事はここの扉から出れば会えるはず


「あっ!」
いた、愛理お嬢様。空を見てるのかな、こっちには気付いてないみたいだ。

1 呼び掛けてから近寄る
2 こっちに気が付いてから話し掛けた方がいいかも
3 ・・・あっ、カラスがお嬢様に!危ない! 



その時、何やら黒いかたまりがお嬢様に近づいていくのが見えた。あれは・・・
「まずい!カラスだ!」
カラスは人に危害をくわえる事もある、凶暴な動物だ。あのままではお嬢様が危ない。
だめだ、近寄るな。危ない、お嬢様が危ない、襲わせはしないぞ

「あうっ?!」
気が付いたら僕は走りだして、お嬢様の前に立ちふさがっていた。カラスのくちばしが僕の右肩の、首に近い場所をつつく。
「うう・・・くっ、あっちへいくんだ!」
がぁあっ、と低く鳴いてカラスは飛び上がり逃げ去っていった。ふう、聞き分けのいい子で助かったぞ。
「あ・・・ああ・・・」
「ケガはなかったですか?愛理お嬢様」
「う、うん、ねえ大丈夫?」
「はい。スーツの上からだったのでこれが防護してくれました」
「ほんとに?痛くない?」
「大丈夫ですよ」

本当は痛かった。ちょっとじんじんする。動物の力は強いんだと知った。
痛いと言ってしまったらお嬢様が不安になる、だから言えなかったんだ

1 改めてもう一度挨拶しよう
2 あっ待ってくださいお嬢様、どちらへ?
3 うわまたカラスが!聞き分けのいい子じゃなかったのか? 



さっきはできなかったのでもう一度挨拶をすることにした。まず先に自分の名前を名乗って
「私は愛理。鈴木愛理っていうの」
「かわいらしいお名前ですね」
「あ・・・ありがと////」
また愛理お嬢様は顔を赤くしてしまった。照れ屋なのかな、なんだか僕もつられそうだ。
「いくつ?」
「今年で、中学二年生になります」
「私と同い年じゃん!へぇ、どこの学校なの?部活は何してるの?」

はじめはどうなることかと思ったけど、普通に愛理お嬢様とお話ができてよかった。
人見知りかと思ったけど普通に話してくれるんだな。
「学校近いね。うふふふ、あなたの学校の前通った事あるよ。おっきいね」

あ、愛理お嬢様・・・その笑顔、かわいいなぁ////
肌が白くて細長くて華奢、声も可愛くて・・・

いけない、今日は研修に来たんだ。遊びに来たんじゃない。
「いいな。普通に歩けて」
急に愛理お嬢様の声が落ち着いた、というか低くなった。
「・・・私、生まれた時から足が弱いの。だからずっと車椅子なんだ」
まずい、ここはどうしたらいいんだ。落ち込まないでくださいお嬢様

1 笑わせてあげよう
2 気を紛らわせるために違う話をしよう
3 「頑張れば歩ける様になりますよ」と励ます 



「気にすることなんてありませんよ!」
「・・・え?」
とっさに口からその言葉が出ていました。つらそうな顔をしているのがたまらなかったから。
笑ってほしかった、さっき見た笑顔がたまらなく可愛かったから
「だから笑ってください。つらそうな顔をしてたらつらくなりますよ」
「急にどうしたの?べ、別につらくないよ・・・」
「ご、ごめんなさい。でも・・・あの・・・」
「・・・ありがと。ちょっと元気出たかも。励ましてくれるの嬉しいな」

笑顔、とまではいかなかったけど微笑んでくれた。やっぱりかわいいなぁ////
「よし、頑張ってみよう!」
あ、愛理お嬢様何を?!いきなり立ち上がるのは危ないですよ!
「わ、わぁっ、あああっ!」

立ってそのまま前のめりに倒れそうなお嬢様を抱き抱えた。
「びっくりしたぁ」
「ケガはないですか?」
「・・・う・・・・・・うん・・・・・・////」

うわ・・・か、顔が近い。愛理お嬢様の心臓の音が聞こえてきそうだ

1 ごめんなさい、と車椅子に座らせる
2 どうしたらいいのかわからず固まってしまう
3 突然「ねえ、キスしたことある?」と聞かれた 



こ、こ、こ、ここ
こんなにに、お女の子と近づいたのは初めてだよ。どうしたらいいんだ
愛理お嬢様は僕の事をずっと見つめている。その顔を真っ赤にさせて、表情が固まったまま
僕もどうしたらいいのかさっぱりわからず抱きしめていた。と、とりあえず座ってもらった方が
だけど大丈夫かな?足が悪いのにちゃんと座れるだろうか、僕の力だけでできるか?
頭の中をぐるぐるいろんな考えが回ってはいるが体はまるっきり動けずに固まっていた。

何も聞こえない。あ、愛理お嬢様しか見えない。


どれくらい経ったのかわからなかったが、いつの間にか愛理お嬢様は車椅子に座っていた。
「・・・あ、あの」
「はい!?」
「そ、そ・・・空、きれい・・・だね」
「そ、そうですね。雲ひとつない快晴で」

雲は普通にあった。しかし愛理お嬢様はその事を指摘しなかった
なんか変な空気になっちゃったな、まだドキドキしてるよ


「ここにいたか」
「父さん?!」

迎えに来たのかな・・・今のは見てないよね?もし見られてたら・・・

1 な、何かあったの?
2 は・・・早いね、僕を見つけるのが
3 もう研修は終わりだって? 



「な・・・何かあったの?」
変に声がうわずってしまった。たぶん見てたよね、今の。そう思うと・・・
「いや、特に何もない。様子を見に来たのさ」

あの様子だと父さんは今のを見てないかもしれない。よかった、見られてたら大変だ。
「愛理お嬢様、うちの息子はどうですか?何か失礼な事をしませんでしたか」
「えぇっ?!いっいえ、何もしてません」
「まさか挨拶もしていないのですか?」
「挨拶はしました!変なことはしてません!」
明らかに怪しいですよ愛理お嬢様、真っ赤になってあたふたしているので。
「それなら大丈夫ですね。あと少ししたら今日の研修は終わりだから、もうちょっと愛理お嬢様のお世話をするんだ」
「うっうん!わかった!」

父さんは首をかしげていた。き、気付いたかな・・・?
「ではお嬢様、至らない息子ですが、もうしばらく貴女のお世話をさせて頂きますので宜しくお願い致します」
「こちらこそ・・・」


ま、また二人になっちゃった。気まずいなぁ

1 もう少しお話しよう
2 無理に話すのも気まずいからこのまま終わるまでおとなしくしていよう
3 愛理お嬢様がまた立ち上がろうとして・・・! 



「見てて、今度こそちゃんと立ち上がるから!」
「何をなさるのですお嬢様?!危ないですよ!」
またいきなり立ち上がろうとしたのでとっさに止めた。
「・・・あなたに見ててほしいの。私が立ち上がるところ」
「し、しかし」
「大丈夫、きっとうまくいくから!」

・・・さっきの僕も、二回目に愛理お嬢様とお会いする前にそう思って自分のを奮い立たせた。
ここは愛理お嬢様を信じよう、きっとうまくいくはずだ

「んん・・・うう、くっ、はあ、はぁ、ああ」
愛理お嬢様が、立ち上がろうとしている。つらそうだけど手を貸したらいけない

「はあ、はあ、はあっ・・・!ど、どう?たってる?」
「はい!立ってます、愛理お嬢様!」
すごい、愛理お嬢様がしっかりと自分の足で立っている!
僕はこの時、やれない事は何もないんだと思った。あきらめなければ必ず出来ると・・・・・・


「執事さん」
後ろから声がしたので振り向くと、そこには・・・
「愛理お嬢様」
「どうしたの?ぼーっとしちゃって」
「・・・考え事をしていました。昔の事を」

あのお嬢様は愛理お嬢様にそっくりでした。
お顔も、そのお声も、立ち振舞いも・・・そして強くしっかりした芯のあるところも。

このお屋敷に来てから今まで思い出さなかったのは不思議だ。
「いつの事?教えてほしいな」
「・・・中学二年生の時の事です。誰にでもある思い出ですよ」


そう、誰にだってあるはずだ。大切な人との出会いが
僕は・・・愛理お嬢様の大切な人になれるのだろうか?

「ふぅ〜ん、もしかして好きな女の子の思い出?」
「あっ、ああ、あ、あの、その、えと////」
「やっぱりそうなんだ!なんか嫉妬しちゃう、教えなさい!」


もう一人の愛理お嬢様。僕の大切な人・・・・・・

いつかまた出会えたのなら、その時は・・・前を向いていたいです