あれ以来、梨沙子お嬢様は少しだけ僕に心を開いてくださる様になった。 ちゃんと挨拶と普通の会話くらいはできる様になった。それだけでもうれしいのです。 ・・・しかし、いまだ僕に心を開いてくださらないお嬢様が。 僕が挨拶してもお返事はしてもらえず、口を開けば悪口ばかりのお嬢様。 「何しに来たのよ」 「執事として勤めに参りました。なんなりと御用をお申し付けください、雅お嬢様」 ふんっと顔を背けて踵を返し僕から去ろうとする雅お嬢様。 今日も相変わらずご機嫌はよろしくなさそうですね。 1 あとを追い掛けましょう 2 何か話してみようかな 3 ほっといて梨沙子お嬢様のところに参りましょう まぁ、いつものことじゃないか。雅お嬢様が冷たいのは。 「今日も暑いですね。どちらへ行かれるのですか」 「アンタには関係ないでしょ」 「お待ちください。帽子をかぶらないと日射病になってしまいますよ」 「うるさい!ついてこないでよ!」 雅お嬢様はどちらに向かわれているのでしょう? あっちは・・・森の方。よく桃子お嬢様や千奈美お嬢様がいらっしゃる場所です 先ほど、雅お嬢様にお会いする前に森を訊ねてみましたがあいにく誰もいませんでした。 「ついてこないでって言ってるでしょ」 「そういう訳にはいきません」 「・・・じゃ、お嬢様として命令。ついてこないで」 そうきましたか・・・ 1 かしこまりました。といったんこの場では引き下がる 2 残念ですがそのお願いは聞き入れません 3 ・・・おや?雅お嬢様の近くに何か黒い影が・・・ 「申し訳ございませんがそのお願いは聞き入れられません」 「・・・へ?なにそれ。執事がお嬢様のお願いを拒否するってどういう事よ」 とっさに口から出た言葉、それは雅お嬢様のお願いを聞かないという意思表示。 ・・・きっと、僕は少しむきになったのかもしれない。いつまでも僕を否定しようとする雅お嬢様に対して。 「だからついてこないでっていってるでしょ!しつっこいのよ!!」 すると雅お嬢様は走りだしてしまった。僕から逃げようとする様に。 「走ると危ないですよ!」 「うるさ・・・きゃあぁっ!」 ああ、言わないことじゃない。大丈夫ですか?! 1 確か絆創膏があった、早く手当てしなければ 2 なぜかその姿を見てふきだしてしまった 3 ケガは舐めれば治ります、早く舐めさせなさい! 「イタタタタ・・・いったぁーい」 み、雅お嬢様って意外と抜けているというか・・・その・・・ 「なに見てんのよ」 「い、いえ、そのっ、くっ、くく」 「笑った?!いま笑ったでしょ!!人が転んだのがそんなに可笑しいわけ?!」 「うわぁああっ!」 立ち上がって僕を突き飛ばす雅お嬢様。 お、お嬢様でありながらなんて力だ。思わずよろけてしまいその場にしりもちをついてしまった。 「いたたたた・・・」 「これでおあいこよ。あんただって転んだじゃない」 「え、ええ、派手に転んでしまいましたよ」 雅お嬢様はしばらく僕を眉をしかめて見つめていたが、やがて笑いだした。 「うふふ、うふふふ、あははは!なにその変な顔。なんかおかしいよ」 「み、雅お嬢様こそ・・・」 「なによぉ。うふふふ、あはははっ!」 なぜ笑ったのかわかりませんが、機嫌は良くなった様です。良かった・・・ 1 おや、雨?ってどしゃ降りじゃないですか! 2 あっ雅お嬢様、どちらへいかれるのですか ・・・¨ぽつっ¨ なんだ?頭に冷たいものが当たったぞ。 「やば!雨じゃん!」 また頭に当たったと思ったら急にたくさんの雨粒が落ちてきた。 大変だ!これはどしゃ降りだ、急いでどこか、雨がしのげる場所を探さなければ。 「雅お嬢様こちらへ!」 「う・・・うん」 さいわいすぐ近くに木があったのでそこの下に身を隠す。 「うっわぁ〜最悪っ。予報じゃ今日は晴れるとか言ってたのに」 「たまには予報だって外れますよ」 「当たってる方が少ないと思うけど」 ザァアアア、と雨が降り注いであっという間に辺りが見辛くなってしまった。 まいったなぁ・・・傘を用意しておけばお屋敷に戻れたのに。備えあれば憂いなしという言葉を思い出した。 「・・・・」 ・・・それより、み、雅お嬢様とこんなに近い。そして二人きりとは 雅お嬢様はさっき笑っていたのにもう黙ってしまった。気まずいですよ 1 何でもいいから話を切り出してみましょう 2 雅お嬢様がさっき擦り剥いた膝から血が! 3 なんか寒くなってきたぞ・・・ 重い空気の中、先に口を開いたのは雅お嬢様でした。 「・・・痛ぅッ」 膝をおさえるその指から生々しい赤い血が流れているのを見てしまい・・・ 「み、雅お嬢様?!」 「ああ大丈夫。たいして痛くないし」 「そんなに血が流れてるじゃないですか。見せてください」 「いいってば。ていうか触らないで、痛いし」 「だから見なければならないのです、さあ早く」 「・・・ちょ、顔・・・近いよぉ・・・」 雅お嬢様が顔を赤くなさったが今はそれを気にしている場合ではない。 もし傷口からバイ菌が入ったら大変なことになってしまいます。 ああ、何かないのか。この雨じゃ出歩くのも危険だ、お屋敷までいけそうにないし 1 ポケットを探る 2 雅お嬢様を気遣う 3 仕方ない、ここは傷口を舐めるしか・・・ 仕方ありません。ここは・・・ 「雅お嬢様、失礼いたします」 その白い膝から流れる鮮血をそっと指ですくった。 「え・・・やだ、なにするの執事さん」 「あいにく手持ちの薬がないので、僕が傷を舐めて治療いたします」 「なに考えてんのよ?!やだ、やだ、やめてったら!」 「失礼いたします雅お嬢様」 「・・・・・・あ・・・!」 傷口に舌を触れると、ぴくっと体を強ばらせた。 拒否されるのは覚悟していましたがされるがままに僕を静かに見つめています。 「・・・い、あ・・・」 止まって、血よ、止まって。 こんなやり方間違ってるかどうかはわからない、でも僕はこれを選んだ。 お願い、もう雅お嬢様を苦しませないでください・・・ 急に体に衝撃が走り、気が付いたら僕は葉っぱの天井を見つめていた。 「バカ!いきなり何してんのよぉっ!」 「・・・い、いたたた、いまさら痛くなってきましたよ」 ああ、また突き飛ばされたんだ。いたたた、押された胸とぶつかった後頭部が痛い。 「そこまでしなくていいの!まったく、あんたバカじゃないの?!」 「・・・そうかもしれません」 「なに笑ってんのよ。ホント、バカなんだから」 なぜいきなり雅お嬢様の膝を舐めたのだろう? わからない、きっと・・・血を見たからかもしれない。傷つく姿を見るのは嫌だったから・・・? 「・・・・・・ぁ、ぁのさ」 「はい?」 雅お嬢様は消えてしまいそうな小さな声で呟いた。 「・・・気遣ってくれて・・・ありがと・・・」 なんとおっしゃったのだろう。雨がひどくてよく聞こえなかった ・・・あれ、どうして顔がそんなに赤いのですか、お嬢様。 「あ、雨、やまないね」 「・・・ええ、しばらくはこのままですね」 「・・・・・・」 雅お嬢様は僕から顔を背けてしまった。 ・・・その耳は、湯であがりそうに真っ赤でした。