愛理お嬢様が僕を避けるようになってからしばらく経つが、一向に話しかけるチャンスがなくて困っている。 
執事の仕事の合間に愛理お嬢様のお部屋まで行くのだが、ドアをノックするのが躊躇ってしまう。 
そんな自分に喝をいれ、いざノックをしようとなると他のお嬢様に声をかけられたり、新しい仕事が入ったりでここまできてしまった。 
今日こそはと僕は話しかけるチャンスを伺って愛理お嬢様の側で待機している。 
嫌な顔をされてどかされるかと不安もあったが、それは杞憂に終わったようで普段通りに食事されている。 
よかった、今日なら愛理お嬢様にきちんと謝罪ができそうだ。 
僕が安心しきっていた矢先、愛理お嬢様がスプーンを床に落とされた。 

「愛理お嬢様、どうされましたか?」 

僕が慌てて駆け寄り、声をかけると愛理お嬢様は僕の耳元だけに聞こえる声で話しかけられた。 

「執事さん、あの…朝食が終わったら私の部屋にすぐに来てくれますか?」 

願ってもない、愛理お嬢様から僕に謝罪のチャンスを与えて下さった。 
しかも気まずいであろう自室に呼ばれたとあっては少しは許して下さったのかもしれない。 
ありがたい、ここはきちんと謝罪せねば。 

「〇〇さん、男手が必要な仕事があるので手伝ってもらえないかしら」 

僕がお嬢様方の食器の後片付けをしているとメイドさんからお仕事を頼まれてしまった。 

1 わかりました、手伝います 
2 申し訳ないと断る 
3 素直に愛理お嬢様の用事があると話す 



せっかくの愛理お嬢様との仲直りのチャンス、ここはお仕事よりもお嬢様を優先させてもらおう。 

「先ほど、愛理お嬢様に用事を申し付けられたのですみませんが今回は無理かと」 
「そうでしたか。なら仕方ありません。後でそちらのお仕事をお願いします」 

メイドさんには若干の罪悪感はあったものの、愛理お嬢様との約束を反古するわけにはいかない。 
また愛理お嬢様の車椅子を押しながら、お屋敷内を散歩してみたい。 
僕はすぐに愛理お嬢様のお部屋にいくと、ノックをした。 

「愛理お嬢様、僕です。約束通りに伺いました。入ってよろしいでしょうか?」 
「執事さん、部屋の前にいて」 

な、何とまだ完全に許してもらえたわけではないのですね。 
考えてみれば、あれほど僕を避けられていた愛理お嬢様がいきなり許すわけもない。 
今はこの一枚のドアが僕と愛理お嬢様の心を表しているようで切なくなる。 
この一枚が果てしなく厚い壁となって立ちはだかっている。 

「愛理お嬢様…」 
「執事さん、りぃちゃんから話は聞きました。私を思って部屋に入ってきたって」 

梨沙子お嬢様、一見冷たくみえるのに僕を庇ってそんな事をして下さるとはありがたい。 
感謝してもしきれない、後で梨沙子お嬢様には感謝の気持ちをお伝えせねば。 

「それでなんだけど、執事さんは私の事どう思ってるのか教えて」 
「そ、それはあなたは僕にとってかけがえない大事なご主人様の一人です」 
「そうじゃないの。あなたの本当の気持ちを教えて」 

愛理お嬢様の声がだんだん大きくなってくる。 
声を張り上げているわけではなさそうだから、車椅子でドアの近くまで移動されたということだろう。 
愛理お嬢様は消え入りそうな声音で僕に話しかけてきている。 
体の調子が悪いからというのではなく、これは僕がそんな気持ちにさせているからかもしれない。 

「それはどういう事でしょうか?」 
「執事さんは私を女の子としてみて好きか嫌いかっていうことが聞きたいの」 

1 僕はあなたを一人の女性として愛しています 
2 僕はあくまでしがない執事です… 
3 僕はそんな目であなたをみたことはありません 



僕の本当の気持ち、そんなの考えるまでもなく決まっている。 
だが、それは執事としては抱いてはいけない感情であり、ずっと自分の中にしまってきたものでこれからも言ってはいけないものだ。 
抱く事すら恐れおおいこの感情、ここで明かしてもいいものか… 

「執事さん、お願い。答えて」 
「僕は…僕はあなたを一人の女性として愛しています」 

震える声で僕は愛理お嬢様に気持ちを伝えてしまった。 
ご主人様、申し付けありません。 
僕は愛理お嬢様を心の底から愛しています。 
愛理お嬢様の笑顔がみられなくなってからは、僕は仕事に身が入っていたとは言い難い。 
いつも心のどこかでそれを気にかけていたからだ。 
愛理お嬢様の笑顔が僕の働く原動力となっていた。 

「執事さん、命令です。もう一度、さっきの言葉を私に聞かせて」 

愛理お嬢様が涙声で僕に命令をするなど考えられなかった。 
愛理お嬢様は僕に対し、今まで命令らしい命令など発したことがなかったから驚かされた。 
その初めての命令も何て愛理お嬢様らしいんだろうか。 

「僕はあなたを一人の女性として愛しています」 
「執事さん、あのね…私が汚らわしい事してても許してくれる?」 

1 許しません、お尻を叩かせて頂きます 
2 許すも何もありません、僕こそ汚らわしい事をしてました 
3 愛理お嬢様が汚らわしいなんてありません 



愛理お嬢様の告白はあの時、ご自分が何をされていたかを遠回しに仰られたようなものだ。 
しかも女性がそのような告白をされるのは並みの勇気では難しかったはずだ。 

「許すも何もありません、僕こそ汚らわしい事をしてました。愛理お嬢様をおかずにしてたんです」 

愛理お嬢様がそれだけの告白をされたんだ、僕も応えなくてはならない。 
僕こそ汚らわしい人間なのです、あなたをおかずにオナニーに耽っていたのですから。 
罵られても構いません、許されなくとも構いません、それだけの事をしました。 

「それ、本当ですか?」 
「え、えぇ…僕をどれだけ罵っても構いません。あなたを汚したのですから」 
「違うの。あなたが私を女性としてみてくれていた事が嬉しくて…で、でも…エッチは」 
「やはり幻滅されましたか?」 
「ううん、執事さんも男なんだなって」 

ここで初めて愛理お嬢様が笑って下さった。 
あれ以来一度たりとも笑い声すら聞いた事がなく、僕はあまりの嬉しさに涙が出そうになっている。 

「愛理お嬢様、僕の事を許してくれますか?」 
「うん。だって私もあなたが大好きだから」 
愛理お嬢様、僕は何て幸せ者なんでしょう。 

1 ドアを開け抱きしめにいく 
2 愛理お嬢様がドアをあけ、微笑んでくれた 
3 また愛していますと返す 



僕はもう抑えきれない。 
手はドアノブを握り、愛理お嬢様の笑顔がみたいと気持ちが急く。 
執事がお嬢様のお部屋に勝手に入ることは禁止であり、前回の苦い経験が思い出される。 
しかし、今だけは、せめて今だけは愛理お嬢様のお部屋を開けることをお許し下さい。 

「愛理お嬢様、あなたを愛しています」 
「執事さん」 
「執事失格なのはわかっています。ですが、僕はあなたを愛してしまった」 
「いいの、私もあなたを好きだから。それにまた命令があるの」 

泣き顔で愛理お嬢様の顔をみつめると、お嬢様も泣いていた。 

「命令なら何なりとお申し付け下さい」 
「私をずっと愛してほしいの…ううん、愛しなさい」 
「はい、ずっと…一生あなたの側で尽くさせて頂きます」 
「ダメ、尽くしてほしいわけじゃないの。愛なんだから対等に接して」 
「そ、それは…」 

愛理お嬢様は僕に対しいつになく強い視線を向け、対等を強要してくる。 
ご主人様が知ったらさぞやかんかんになるだろう事だが、僕はこの方に仕えたい。 
答えは「わかりました。あなた…いえ、愛理さんを愛していきます」だ。 

「執事さん、あなたを二人の時は名前で呼ばせて」 
「はい…あっ、うん…」 

慣れないな、どうも愛理お嬢様相手に敬語ぬきで話すのはしっくりこない。 

「〇〇さん、湖にいかない?私、そこで目一杯陽の光を浴びたい」 
「はい…うん、いきましょ…いこう」 

僕は愛理お嬢様の車椅子を押して、湖のほとりまでやってきた。 
今日は眩しいくらいに太陽が照りつける晴天に恵まれた。 
愛理お嬢様が眩しそうではあるが、太陽を浴びて嬉しそうにしている。 

「〇〇さん、私ね、体が良くなったら世界を飛び回りたいな」 
「きっと良くなりますよ。…すみません、つい」 
「いいよ、あなたが話しやすいようにしてくれれば」 
「ありがとうございます。愛理さん、ことわざの井の中の蛙は知ってますか?」 
「うん、自信過剰な人を戒める言葉でしょ。世界をもっと知りなさいっていう」 
「えぇ、普通はそうですが、僕は違う考えなんです。何で誰も井の中の蛙が世界を知らないって決めつけるんでしょう。 
蛙はもしかしたら外から井戸に落ちてしまったかもしれないのに。皆、蛙を世間知らずと笑います」 
「うん」 
「僕は蛙はきっと世界をもっと見たかったと思うんです。今の愛理さんみたいに」 

僕はここで愛理お嬢様を振り返り、話を続けた。 

「僕があなたをこの井戸から救い出してみせますから。その時まで待ってて下さい」 
「はい」 

愛理お嬢様がまた涙を流され、僕を見上げてきた。 
僕はあなたを救い出してみせますといった気持ちは本当です。 

「〇〇さん、お願いがあるの」 

1 キスして 
2 接吻して 
3 口づけして 



「口づけして」 

それってつまりはキスをしてほしいという事だろうか。 
キスというのも恥ずかしいのか、照れ屋な愛理お嬢様らしいお願いだ。 
僕はそれを快く受け止め、執事だから禁止だという事をあえて忘れたふりをしてキスをした。 
そうでなければ僕は愛理お嬢様にキスは出来なかっただろう。 
震える小さな肩を手をおき、僕は愛理お嬢様に口づけをした。 
生涯で決して忘れることはないだろう最高のキス。 
僕は愛理お嬢様をいつか世界をみせてあげたいと誓った。 
大事な笑顔を守りたいから 


(執事)<井の中の蛙大海を知らず (執事)<されど空の深さを知る (執事)<広い視野は持たないかも知れませんが、物事を深く突き詰める目を持っているのですよ 州´・ v ・)<○○さん… 壁|∀`l|<まだだ!まだ終わらんのだよ! (;執事)<さ、寒気がする・・・