うぅ…腰が重たいな… 
ゆうべはとうとうえりかお嬢様と… 

!!! 

頭まですっぽり被っていた布団を剥がして飛び起きた。 
えりかお嬢様は!? 

「…あれ? えりか、お嬢様……」 
いない、いないぞ。部屋のどこにもいない。 
いつも通りの部屋。いつもと違うのは僕が裸なことと外がすっかり明るいこと。 
外が明るい!? 
時計を見ると、すっかりお嬢様たちの朝ごはんも終わるような時間。 
やっべぇぇぇ!!寝過ごした!! 
いくらあんなことがあったからって、大失態だ。 
慌ててスーツを着込み、食堂へと走った。 

「ひつじさんおそ〜い!!」 
「また起こしてくれなかった〜!!」 
とお嬢様たちのお叱りの声を受けながら周りを見回す。 
え、えりかお嬢様は…? 

1.「…おはよ」と色っぽい笑みを 
2.「おはよう、執事さん」って、え、いつも通り…? 
3.「………」む、無視ですか…!? 
4.あれ、いらっしゃらない…? 



「おはようございます、えりかお嬢様」 
「おはよう、執事さん」 
ようやく見つけたえりかお嬢様に挨拶したけど、普通にジャムを塗りながら返されてしまった。 
え、いつも通り…? 
昨日のことがあったのに… 
夢、なわけないよな、起きたら裸だったし…。 

「執事さん、コーヒー飲みたいー!」 
「私牛乳がほしいですー」 
呆然としているうちに、ほかのお嬢様たちから矢継ぎばやに命令が出される。 
いけないいけない、ボーっとしている暇はない。 
慌てて皆様のお世話に戻り、飲み物をお注ぎして回る。 
でも、頭の中はえりかお嬢様のことでいっぱいになっていた。 

ようやく皆様のお食事も終わり、一段落着いた。 
けど依然として頭の中はえりかお嬢様のことでいっぱいになっていた。 
どうしてあんな普通の態度を? 
やっぱり僕なんかと交わってしまったことを後悔されてしまっているのだろうか。 
それとも、一晩だけの関係のつもりで? 
うぅ、考えても分からない…。 
とにかく、僕はこの屋敷に勤める者としてやってはいけないことをしてしまった。 
これからどうしよう…。 

1.まずはえりかお嬢様とお話を 
2.C館の他のお嬢様に探りを 
3.ちょっと独りになりたい 
4.問答無用で荷物を纏めましょう 



朝のえりかお嬢様の態度、それが結論に違いない。 
1度繋がりを持ったからってなれなれしくしないで、身分が違うんだから。 
考えれば考えるほど僕の思考は落ち込んでいっていた。 
お屋敷を出よう。それしかない。 

昼間だとお嬢様にメイドさん、多くの人が慌しく動いているこのお屋敷。 
夜中、みんなが寝静まった頃にこっそりとお屋敷を出ることにしよう。 
今のうちに荷物を纏めておかないと。 

思えば、短い間だったけど本当にいろいろなことがあった。 
可愛らしいお嬢様たちのお世話ができて、皆さんの信用をいただいて。 
うっかり早貴お嬢様のお風呂を覗いてしまったことも。 
桃子お嬢様の沐浴を目撃してしまったことも。 
雅お嬢様に「追い出してやる!」と睨み付けられたことも。 
こうして僕が出て行ったら、やっぱり勝ち誇るのだろうか。 
茉麻お嬢様の自分を見つめるあの目。 
千聖お嬢様の自分を気遣ってくださる眼差し。 
舞美お嬢様の屈託のない笑顔。 
いくつもの思い出が思い出しては頭の中を流れていく。 
そして…。 
えりかお嬢様のことを思い浮かべる。 

 "ドンドンドン!" 

「ちょっと執事さん、開けて!!」 
いきなりお嬢様が激しくノックをして、そのまま僕の部屋に入ってきた。 
な、何事ですか、いきなり!? 

1.舞美お嬢様 
2.千聖お嬢様 
3.早貴お嬢様 
4.え、え、えりかお嬢様…! 



「もぉ〜舞美ったらしつこいんだよ。うちは別に何もないって言ってるのに…」 
え、え、え、えりかお嬢様…! 
「あーちょっと匿わせてね、舞美がうちのコイバナ聞きたいとかいきなり唐突に言ってくるからさぁ」 
「ってあれ?なんでこんなに散らかってるの?」 
「執事さん?聞いてますか、お〜い」 
あまりに突然のことに、しゃがんだ状態のままえりかお嬢様を見上げて固まってしまった。 
喉が渇く。息が詰まる。 
声を出そうとしているのに、何も出てこない。 

「お・に・い・ちゃん?」 
「うわわっ!?あああえええりかお嬢様!」 
「もぉ〜いやなんだよ、ボーっとしてたらw」 
「ももも申し訳ありません」 
どうして?なんで今えりかお嬢様がここに? 
さっきまでのあの態度は? 
実はやっぱり僕のことが… 
いやいやそれともえりかお嬢様はやっぱり僕なんかとは付き合えないから、そのことを言いに… 

「とにかくちょっと匿わせて、舞美ったら五月蝿いんだから」 
「え、ええ…散らかってますけど…」 
今夜お屋敷を出ようと思っていた。 
なのに、えりかお嬢様の顔を見たら…心がぐらついてしまいます…。 
抱き締めたい、けどもし拒絶されたら… 

1.かまわない、抱き締める 
2.できる限り普通に接する 
3.ばれないように荷造りの続きを 



気持ちを動かしてはいけない。今夜お屋敷を出るんだ。 
でないと、この先何度でも同じ事を繰り返してしまうかもしれない。 
そしてそれはえりかお嬢様を激しく傷つける。 
僕は静かに、そして荷物を纏めてるとは気付かれないように作業を進める。 

「ねぇ〜なんでこんな散らかってんの?」 
「申し訳ありません、ちょっと整理をしておりまして…」 
「えー、いつもキレイじゃん、散らかってたことなんてないのに」 
「いやいや、そうは申しましてもクローゼットの中などは酷い物でしたから、これまで開けなかったもので」 
「ふ〜ん…」 
…ごめんなさい、嘘です。 
必要最小限の荷物を整理していく。鞄に詰めたら怪しまれるので、ばれないようにそこらに積み重ねながら。 

「じゃあ…なんでさっきからこっち見てくれないの?」 
「ッ!?」 
心臓が飛び出そうになった。 
「私のこと、キライ…?」 
「え、いや、そのようなことは…」 
「だってさっきから全然そっけない。朝もそうだったし」 
「いやそう申されましても…」 
「おはようのキスくらいしてほしかったんだよ」 
「そんなことできるわけないじゃないですか…」 
背中に感じた柔らかい感触。 
気付いたらえりかお嬢様が僕を後ろから抱き締めていた。 
き、気持ちが揺れる…! 

「えり〜〜〜!?どこ行ったの〜〜〜!!!?」 
「やばっ!」 
えりかお嬢様は僕を抱き締めたまま身を固くする。 
大声を上げて舞美お嬢様がえりかお嬢様を探している。 
昨夜の件は舞美お嬢様は知らないはず。 
だけど恋のお話なんてあまりにタイムリーすぎる。 
口を滑らせそうでえりかお嬢様は逃げてきたんだろう。 
どどどどうしよう…。 

1.そのまま物音を立てず、じっとしている 
2.えりかお嬢様をクローゼットに隠し、廊下に出て舞美お嬢様の相手をする 
3.舞美お嬢様がドアを!アッー!! 



物音を立てないように、じっとする。 
舞美お嬢様にえりかお嬢様が見つかってしまったら、洗いざらい喋らされせられてしまう。 
そうしたら、ヘタしたらお嬢様たち全員に僕とのことがバレてしまうかもしれない。 
それは、えりかお嬢様を酷く傷つけてしまう。 

「えり〜〜〜!?あっれ〜?どこ行ったんだろ…」 
舞美お嬢様が僕の部屋の前を通り過ぎていく足音と声が聞こえる。 
ばれなかった、かな…よかった…。 
このまま顔をあわせないで暫くしたら、舞美お嬢様も気が済んでお忘れになるだろう。 

「ねぇ、お兄ちゃん…」 
「ッ!!?え、えりかお嬢様…?」 
抱き締められたまま、熱っぽい声で耳元で囁かれてドキリとする。 
そうだ、今僕はえりかお嬢様と密着した状態で…。 
「私のこと、キライになった?ゆうべのこと、後悔してる?」 
「どどどどうしてそんなことを…?」 
「いいから答えて」 
やめてください、そんな声で囁かれたら、僕は…! 
急にごとごと脈動を早めだした心臓の音がうるさい。 

1.後悔なんて…するわけないじゃないですか 
2.でも、僕とお嬢様では身分が違いますし… 
3.いけません、僕は今日ここを出るんですから…あっ!!! 



「後悔なんて…するわけないじゃないですか」 
「ホントに?」 
「本当…ですよ……」 
えりかお嬢様が身体を離して正面に回り、僕の顔をまっすぐに見つめてくる。 
あぁ、思えば今日はじめてえりかお嬢様と本当に目を合わせた気がする。 
お嬢様の目は真剣で、いつものように僕をからかってる目じゃない。 
いけない…そんな目で見られては、決心が揺らいでしまいます…。 

「じゃあ命令。今夜、私の部屋に来て」 
「え…えっ?えりかお嬢様の部屋に?」 
「だってお兄ちゃん目だって今やっと合わせてくれただけだし、抱き締めてもくれない」 
「それは、その…」 
「お兄ちゃんの気持ち、知りたいから。今度はお兄ちゃんが"よばい"、して?」 
「そ、そんなこと!」 
「今夜、待ってるから!」 
それきり、えりかお嬢様は僕を引き剥がすと、部屋から出て行ってしまった。 
考えてみたら、えりかお嬢様に対して僕が積極的になったのは、本当にゆうべ、したときだけ。 
あとはみんなえりかお嬢様主導でやって、僕はそれに流されてきただけだ。 
えりかお嬢様は、きっと僕の本心を知りたがっているに違いない。 
けど、"よばい"、だ…してしまうことは、さらに罪を重ねることになる。 
やはりここはお屋敷を出るべきか…いやしかし、えりかお嬢様を裏切ることにも… 

そうこうしているうちにあっという間に夜になり、皆様も寝静まる時間になった。 
僕は… 

1.えりかお嬢様、参りました 
2.えりかお嬢様…って違う!あぁぁ部屋間違えた!! 
3.ここは…動きません、部屋でじっとしています 
4.始めから考えていた通り、お屋敷を出ます…さよなら 



…えりかお嬢様を裏切ることはできない。 
散々悩んだ末、僕はえりかお嬢様の部屋に行くことにした。 
だ、断じて"よばい"じゃないぞ!話を、話をするだけなんだ! 
自分の心に何度も言い聞かせながら物音を立てないように廊下を歩く。 
流石にこの時間だと誰もいないな…。 

えりかお嬢様の部屋の前に立つ。 
深呼吸して、ゆっくり、音を立てないようにノブを回して部屋の中に入った。 
あれ、真っ暗だ…えりかお嬢様、寝てるのかな? 
待ってるっておっしゃっていたのに…。 
布団の中の膨らみ。それはベッドの主が既に夢の中に旅立っていることを示す証に他ならない。 
「お嬢様…執事が参りましたよ…」 
ゆっくり、恐る恐る布団をめくってみる。 
「んぅ…なにぃ〜?」 

 ! ! ! 

違う!この方はえりかお嬢様じゃない!! 
あぁぁぁぁ部屋間違えたぁ!! 
こ…この方は!この方は!!! 

1.舞美お嬢様 
2.早貴お嬢様 
3.愛理お嬢様 
4.千聖お嬢様 
5.舞お嬢様 
6.栞菜お嬢様 



「えっ…し、執事さん…キャァモガッ」 
悲鳴を上げられそうになり、慌てて口を手で塞いだ。 
「申し訳ありません、どうか声を上げないでください、皆さんが起きてしまいます」 
「ムー!ムー!」 
「お願いします、何もしません、本当です」 
「ム…」 
僕の必死の囁きと懇願でようやくお嬢様の抵抗が少し弱まった。 

しかし何ということをしてしまったんだ僕は… 
僕が間違えて入り込んでしまったお部屋。 
それは早貴お嬢様のお部屋だった。 
以前にもお風呂を覗いてしまったことがある。 
なんてタイミングが悪いんだ! 
「なんで…なんでこんなこと…」 
「…ぅ…それは……」 
どうしよう、言い訳なんてしようがない。 
自分の部屋に帰るつもりで間違えた、なんて言い訳は通じない、お嬢様と使用人の部屋のフロアは違うんだから。 
ど、どうしよう… 

1.正直に「えりかお嬢様のお部屋と間違えて」 
2.早貴お嬢様に夜這いをかけようと思いまして 
3.せっかくだ、えりかお嬢様の件をぼかしつつ相談してみる 



「その…早貴お嬢様にどうしてもお話ししたい、というか聞いていただきたい話がありまして…」 
「…え?」 
「それで、その…どうしても2人きりになりたく、こうして深夜にお邪魔してしまいました」 
「そう…なんですか?」 
「本当に申し訳ありません!お休みになっているところ、しかもこんな夜更けに、だなんて」 
「…ううん、私ちょっと誤解しちゃった。執事さんが私を"夜這い"しにきたんじゃないかって」 
「ままままさか、そ、そんなわけがないじゃないですか、あはははは…」 
「そうですよね、執事さん真面目だし、そんなことするわけないのに」 
あぁぁ耳が痛いです、そして心が痛いです早貴お嬢様。 
そんな風に信用されてしまうと、騙しているようで気が引けるんです。 
いや、騙しているのには違いないのですが。 

「その…僕は執事として、あってはならないことをしてしまったのです」 
「何ですか?何か壊してしまったとか?」 
「そうではなく…その、僕は執事でありながら、あるお嬢様のことが…」 
「え?」 
「その…す、す、好きになってしまいまして…」 
「え…えぇぇっ!?」 
早貴お嬢様が目を見開いて大声を上げかける。 
慌てて人差し指を口に当てて「シーッ」と合図する。 

「あ、相手のお嬢様もその、僕の気持ちを知ってはいらっしゃるみたいなんですが…」 
「う、うん…」 
「その…早貴お嬢様はどう思われますか?お嬢様と使用人が恋仲に落ちるなど…」 
「え、え、えーっと…」 
暗がりの中でも早貴お嬢様の目がクリクリとあちこちを彷徨い、顔が赤くなっているのを感じる。 
寝起きだったのもいっきに吹っ飛んでしまったようだ。 
流石にえりかお嬢様とエッチをしてしまったことは言えない。けどこれくらいなら大丈夫なはず。 
早貴お嬢様のお考えは… 

1.ステキ!私はいいと思います! 
2.やっぱり、身分の差って、ありますよね… 
3.な、何故俯いて、上目遣いで僕を見るんですか? 



早貴お嬢様…。 
確かに部屋を間違えてしまったとはいえ、こういう相談ができる相手はこの方しかいない。 
舞美お嬢様はこういうお話しに免疫がなさそうだし、愛理お嬢様にこれ以上心や身体にご負担をかけるわけにいかない。 
千聖お嬢様や舞お嬢様にこういう話題ができるわけがない。 
栞菜お嬢様なんてもってのほかだ。 
早貴お嬢様なら、物静かで歳よりも大人びていて、相談にも乗っていただけるはず。 
ここのお嬢様たちがどうお考えかどうか…僕は知りたい。 

「………」 
「………」 

…な、なんで何も言ってくださらないのですか? 
なんで、俯いたまま、上目遣いで僕を見上げてくるのですか? 
そ、そんな目で見つめられたら…僕、僕は… 
「…知らなかったです、執事さんが、私のことをそんな風に思ってたなんて…」 
「…ぇ……?」 
いつも頭の左側で縛っている髪を下ろした早貴お嬢様はいつもより大人びて見える。 
そんなお嬢様が両手で、僕の手を取って…。 
いや、そうじゃない、早貴お嬢様?あの、何を…… 

>そうではなく…その、僕は執事でありながら、あるお嬢様のことが… 
>その…す、す、好きになってしまいまして… 
>あ、相手のお嬢様もその、僕の気持ちを知ってはいらっしゃるみたいなんですが… 
>その…早貴お嬢様はどう思われますか?お嬢様と使用人が恋仲に落ちるなど… 

…冷静にさっきまでの会話を思い出してみる。 
ぼかしたから当然とはいえ、僕は『どのお嬢様』に想いを持っているかを話していない。 
そして…万一、万が一、だけど…早貴お嬢様が僕に気持ちを持っていたら? 
今話した内容にピッタリ合致する上に、こんな深夜にお嬢様の気持ちを確かめたい、ということに。 
『僕が早貴お嬢様に好意を持っている』と誤解されても仕方ない。 
確かに僕は早貴お嬢様のことも好きです。でも、それは、そういうことではなく… 

1.いや、その、違うんです、早貴お嬢様 
2.だ、抱きつかないでください…! 
3.…やっぱりいけません、このようなこと… 



「…やっぱりいけません、このようなこと…」 
「どうして?どうして?」 
そっと握り締められた手を離す。 
早貴お嬢様の暗闇だっていうのにまっすぐな目が痛い。 
さっきからの行動で早貴お嬢様の僕への気持ちは明らかだ。 
自惚れてるかもしれないが、早貴お嬢様は僕に、単なる使用人として以上の感情を抱いている。 
「や、やはり僕は早貴お嬢様たちのお世話をする執事ですし…」 
「だから何?人を好きになるのにそれってそんなに大事なことですか?」 
「いやしかし…」 
「じゃあどうしてこんな夜中にここに来たんですか?」 
そう言われると辛い。まさか間違って来ました、なんて言えるわけがない。 
かといって、どんな言い訳をしようと、早貴お嬢様を傷つけてしまうだろう。 
早貴お嬢様の気持ちを踏み躙ってしまうのと同義だから。 
僕が何も言えずにいると… 

「…キス、してくれませんか…?」 
「えっ……」 
「教えてください、執事さんの、気持ち…」 
僕の気持ち、僕の、早貴お嬢様への気持ちは… 

1.分かりました、と、キス 
2.もう少し改めて考える時間がほしい、とほっぺたにキス 
3.…できません、申し訳ございません 



「分かり…ました…」 
本当はこんなこと、許されるはずがない。 
万一ばれたら、お屋敷を追い出されるだけじゃ済まない。 
でも、こんな早貴お嬢様に「できません」と突き放すことはできなかった。 
今思えば、僕の思考回路もどこかズレ始めていたのかもしれない。 
それが早貴お嬢様に誤解されたときからか、部屋を間違えたときからか、それともえりかお嬢様と交わってからか。 

「早貴…お嬢様……」 
「んっ……」 

そっと抱き締めて、触れるだけの一瞬のキス。 
「…さ、もうお休みください。寝坊してしまいますよ」 
「うん…ねぇ執事さん、寝るまで、手つないでてくれますか?」 
「…かしこまりました」 
布団に横たわった早貴お嬢様に布団をかけ、そこからはみ出した小さな手をそっと握る。 
「おやすみなさい、執事さん」 
「おやすみなさいません、早貴お嬢様」 
安心したように早貴お嬢様は目を閉じ、数分後にはもう寝息を立てていた。 

…これでよかったんだろうか。 
早貴お嬢様を傷つけないため、とはいえ、気持ちを弄ぶようなことになってしまったんじゃないか。 
そしてえりかお嬢様…。お部屋、行けなかったな。 
これで、えりかお嬢様に続いて早貴お嬢様とも普通の使用人でない仲になってしまった。 
早貴お嬢様の上目遣いのつぶらな瞳を思い出す。 
もう、お屋敷を出るわけにもいかないだろう。 
お嬢様たちを傷つけずに振舞うにはどうしたらいいのでしょう。 
纏めた荷物を簡単に片付けて布団に入ったけど、まったく睡魔は訪れなかった。 


「おはようございます、えりかお嬢様」 
「…ふぇ? …あー!昨日来なかったでしょ!!」 
「申し訳ございません、仕事で遅くなってしまい、夜分に失礼かと思いまして…」 
「な〜んてね♪うちも昨日はいつの間にか寝ちゃってたし、また今度、期待してるんだよw」 
毎朝の日課、お嬢様を一人ずつ起こしに行く。 
えりかお嬢様は昨夜行かなかったことを怒っているかと思ったが、意外にもあっさり許してくれた。 
そしてこの方は… 


「早貴お嬢様…おはようございます、もう朝ですよ」 
「んん〜ぅ…執事さん、おはようございます♪」 
「ゆうべはよくお休みになれましたか?」 
「うん、執事さんのお陰で♪」 
早貴お嬢様はゆうべ夜更かしをさせてしまったにもかかわらずご機嫌だ。 
こんな笑顔を見ると、ゆうべのあの上目遣いの色っぽいお姿と同じ方とは思えないな。 

「あのさ、執事さん…」 
「はい?」 
「私…待ってますからね、執事さんが本当に私に気持ちを打ち明けてくれること」 
ほかのお嬢様のところへ行こうとお部屋を出がけにこんなことを言われた。 
少し照れたそのお顔にドキリとしてしまいました。 
えりかお嬢様、早貴お嬢様… 
僕はまた、執事としていけない過ちを犯してしまいそうです…