愛理お嬢様は生れ付きあまりお体が丈夫では無い。 特に脚の筋肉は普通の人よりも少し弱くて、歩く事が困難だ。 なので普段から車椅子をお使いになっている。 「執事さん、あの」 「はい。何か御用でしょうか愛理お嬢様」 「…お散歩に行ってもいい?」 ちょっと遠慮がちに言うのがお嬢様らしい。 「よろしいですよ。今日はどちらに参りましょうか」 「執事さんが決めて。私はお散歩できるのがうれしいから」 散歩と言っても遠くには行かない。 この広大なお屋敷の敷地の中を少し歩けば十分だった。 ちょっとした学校の校庭よりも広いのではないだろうか。 では参りましょうか愛理お嬢様 1 原っぱの方に行きましょう 2 テニスコートの方へ 3 池にカッパを探しに行きましょう 「いい天気だね」 「はい。見事なくらいの五月晴れですね」 なんといい天気だ。 長袖の僕には少々暑いくらいの強い日射し… いけない、このままだとお嬢様は日焼けしてしまう。 「いいよ傘ささなくても。執事さんが片手になっちゃうよ」 「お嬢様が日焼けをなされたら大変です」 「…わかった」 この笑顔。 …なぜか、初めて見た気がしないのだ。 気のせいかな?そうかも…な それにしてもお嬢様は軽いな。片手で車椅子を押してもそれほど負担にならない。 「執事さん、お話しよう」 最初はあまりおしゃべりしてくれなかったが最近少しづつ僕に心を開いてくれる様になった。 どんな話がいいかな? 1 僕に関してのこと 2 他のお嬢様の話 3 お嬢様のカッパへの愛着を聞いてみる あまり自分のことに関しては話してなかったよな。 「じゃあ今日は僕のことをお話しますね」 「聞かせて。執事さんてなんでこのお仕事しようと思ったの」 「…人に尽くすのが好きだからでしょうか」 「へえ〜。執事さんのパパやママもそうなの?」 「はい。だから執事の家系に育ちました」 「執事さんなんかかっこいいなぁ。優しいし」 自分でもあまり面白い受け答えではないと思う。 でも愛理お嬢様は真面目に聞いてくれている。 正直、お嬢様方は皆揃ってあまり人の話を聞いてくれる感じではない。 しかし愛理お嬢様はいつも僕の話に耳を傾けてくれる… まだ執事になってそれほど経ってはいないからかもしれないな。お嬢様方が話を聞いてくれないのは。 「今度は私の話聞いてくれる…?」 少し上目遣い気味に尋ねるのが可愛らしかった。 1 まだお話してもよろしいですか? 2 はい、お嬢様のお話をお聞きいたしましょう 3 …雨だ、いけない! 「はい。お嬢様のお話をお聞きいたしましょう」 そう言うと、その顔がぱぁっと明るくなった。 「あのねっ。私ね、みんなと遊ぶのが大好きなんだよ」 …私はそんなに遊べないけどとうつむいてはいたが、すぐにまた明るい笑顔になった。 「舞ちゃんと千聖はもうすっごい元気!この間おいかけっこしてたら仲良く池に落ちちゃって」 「ありましたね。池の中でもまだお二人ともじゃれあってましたよ」 「栞菜は優しいよ。執事さんとあまりおしゃべりできないって悩んでたけど」 栞菜お嬢様が… 確かに、あまりあちらの方からは僕には来てくれないな。 …愛理お嬢様… 「舞美寝汗すごいでしょ。夏は何回か着替えながら寝るんだって〜」 「それほど汗をかかれるのですか」 楽しそうだな。 しかしあまりはしゃぐと… 「ごほっ!ご、ごめん、ごほっ!ごほっ!」 「大丈夫ですか?お薬を」 「ま、待って、ごほっ!ごほ、う……く…」 まずい。愛理お嬢様、いつもの発作より苦しそうだぞ 1 すぐに医者を呼ぶ 2 とにかく休ませる 3 こんな時はまた背中を優しくさするんだ、早く! 「は……ぁ…あっ、あ」 息をするのも苦しそうだぞ。もう迷ってなんていられない 「お嬢様、いまその苦しみを取りのぞいて差し上げます」 「し…執事さぁ…ん」 痩せて骨が浮き出そうな背中をそっとさする。 こわさない様に、やさしくなでる様に…… 愛理お嬢様の苦しみをどこかへ飛ばしてしまいたい。 その願いをこの手に込めて背中をさする。 「…ふぅ、はぁ〜、ふぅ…」 よかった。やっと呼吸ができる様になったみたいだぞ。 「ありがとう執事さん。いつも優しく背中さすってくれて 「いいえ、これくらいやらねばならないことですから」 不謹慎だけど、もう少し愛理お嬢様と一緒にいたい。 だが時間はそれすら許してはくれなかった。もう間もなく夕食の時間… 食事は皆で摂るのがお屋敷のルールなのだ。 「執事さん…私…」 「お嬢様いかがされました」 「もう、ちょっとだけ、お散歩したいな」 お嬢様からのお願い、僕はどうすべきなのか 1 いいえ、お屋敷の決まりは守らなければ。戻りましょう 2 …はい。かしこまりました 3 今日は戻りましょう。でも次はもう少し長くお散歩いたしましょう 「ごめんなさいお嬢様。決まりは守らないとなりません」 「執事さんは真面目すぎるよ…はい、わかりました」 ちょっと不満な顔をなさる愛理お嬢様。 「この次は、もう少し長くお散歩いたしましょう」 「…ホント?」 「はい。約束です」 「わかった。約束だよ!」 お嬢様の車椅子を押してお屋敷へと戻る。 心なしか、愛理お嬢様は少し浮き足立っている様に見えた。 愛理お嬢様が喜んでくださるなら僕は頑張ります。 「…今日はちゃんと食べなきゃだめだよ」 「あの…何のお話でしょう?」 「きゅうり。嫌いだなんて許さないよ〜」 「勘弁してください〜」 「じゃきゅうりはいいから、トマトを食べなきゃだめだよ」 「そ…それも…」 こんな他愛のない会話ができるのも、お屋敷までのわずかな距離だけ なんだがこの夕暮れがやけに寂しく感じるのはどうしてだろう